隣接二マス指定席シリーズ
【 こどもの日 】












『端午の節句』
『五節句の一』
『五月五日の節句』

一般的には『こどもの日』
軒に菖蒲や蓬を挿し、粽・柏餅を食べて邪気を祓う。


忍里木の葉にも存在するその祝日の事は、一応ナルトも知識として了解しているし、毎年その日になると里の至る所で玄関先の飾り物や簡素な鯉幟を見るため、時期が来れば必然と思い出す行事だ。
だが頻繁に思い起こすほど重要なものでもなく、まして親も無く時間も無く興味も無いナルトは、自分とその行事の関連性を完全に切り離していたのだ。


六歳になったばかりのころ、その思考は多少覆されてしまったが。


その頃までは、火影である老人がその日は一緒に何か食べようと毎年言っていたが、「あんた仕事はどうした」と現実に目を向けさせて毎回追い払い、餅の替わりに自分は任務をもらっていた覚えがある。
ひどく残念そうな顔をしていた火影に、それでも特に何も感じるところはなく淡々と過ぎていった日。
それが激変したのは六歳からで。


六歳の時に色々と衝撃的な対面を果たした名家の親達はそれ以来、五月五日には必ずナルトの家へやってくる。
それぞれが手に柏餅やら何やらを持って。
一年目は他人から食物をもらうなんて自殺行為を簡単にするわけなく、適当な理由をつけて(時には力にモノを言わせて)追い返した。
二年目も同様に追い返そうとして、しかし学習したらしい彼らは「受け取るまで死んでも帰らない」と全員が全員言い切り、ナルトを大変困らせた。
名家所属(一部当主)の者達を殺せるわけもなく、互いに根気を要する沈黙の冷戦を繰り広げ、結果、彼らが持ってきたものを好き勝手に置いていくという形で幕を閉じたわけだが。(置いていかれた食物などはナルトに問答無用で処分された)
三年目、大分付き合いが出てきて、ナルトはついに拒まず差し出されたものを受け取った。
その時の彼らの顔はまさに『感極まった』といっていい様子で、その日一日は上機嫌な姿が里内でちらほら見かけられたらしい。
そして四年目以降からその状態が続いており、ナルトにとっても五月五日はある意味特殊な日となってきていた。







(……何なんだいったい…………)

三日間の徹夜で完遂した任務からやっとこさ帰還し、さすがに疲労を訴える身体を休めるため、昨晩倒れるようにベットにダイブしたことまでは覚えている。
ここまで深く眠ったのは本当に久しぶりで、それでも他人が接近したら恐らく起きる事ができた。
現にこのアパートの階下に住む、私兵ということになっている二人が玄関前に立つ前には目が覚めていた。

いや、そんなことはこの際もうどうでもいい。


「何やってるんだ……」


入室の許可を与える前に問答無用で押し入ってきた二人の内、小さいほうは手に持った籠とともに台所へ、大きいほうは一直線にソファーに向かいくつろぐ体勢を取った。
呆然と、ベットの上で上体を起こした体勢のまま、ナルトは台所に立っている後姿に問いかけた。

「おはようございます、ナルト君」
「何やってるんだ」
「おはようございます」
「だから何やって……」
「おはようございます」
「…………おはよう」

ナルトの返事に満足した白は「もうお昼近いですけどね」と苦笑して、再び作業の続きに取り掛かる。
結局問いの返答を貰えなかったナルトは、この間買ったばかりのソファーに堂々と横になっている再不斬に視線をずらした。

「いったい何なんだ」
「五月五日だからだそうだ」
「……」

“意味が分からない”と表情をしかめたナルトに、再不斬は付け加える。

「柏餅だとよ、3人で食おうって唐突に思い立ったらしい」

そんなことのために住居不法侵入を果たしたのか、とある意味賞賛に値するその白の行動力にただただ家主である金色は呆れの感情を見せるのみで、布団から出るとさっさとラフな格好に着替えた。
一週間の休暇を貰った(もぎ取った)ため、暫くはゆっくりできるだろうと頭の中でこれからの予定を組んでいく。
クナイや手裏剣といった消耗品の補給、最近あまり使ってなかった鋼糸の調整を含めた訓練、草花の世話、試してない術の実践、最終報告書の作成、やりたいことやらなければならないことは腐るほどあった。

「それにしても…」

よく自分がこんな時間まで起きなかったものだ。
部屋に漂う甘ったるい匂いに、ようやく意識が覚醒してきて、冷静になった脳がただ思考を繰り返す。

そして気がついた。

そうだ、そうだった、今日は五月五日。



「……逃げよう」



諦めの悪い名家の親共がやってくる。間違いなく。

近年の恒例行事となってから、この日はナルトにとって鬱陶しいものの一つとなった。
全員が全員柏餅などを持ってくる、つまりその日のナルトの食事は粽か柏餅。
甘味は結構好きだが、ものには限度というものがある。
適当に着たティーシャツをまた脱いで、忍服に着替えなおし、隣の部屋から必要最低限の任具が入ったポーチを取ってくる。
手裏剣入りのホルスターを足に装着してナルトは玄関へ向かった。

「どこ行くんですか?」
「明日には戻る」
「どこに行くのかと聞いたんですけど」
「とりあえず逃げる、その辺をうろつくさ」
「逃げる? お前がか……?」
「俺は食事が甘味になるのは嫌なんだよ」

心底という様子で吐き捨てたナルトに、『何故逃げるのか』という疑問よりも、珍しい表情を見せたことへの純粋な驚きを二人は味わった。
それも気にせずさっさと出て行こうとしている姿を見て正気の戻った白が、慌ててその細い腕をつかむ。

「放せ」
「僕達は今日ナルト君と過ごすためにここにきたんですよ、それじゃあ本末転倒です」
「それなら明日にしてく……ちっ、もう来たか」

ナルトが近づいてくる慣れた気配に小さく舌打ちをもらして、再不斬が見知らぬそれにソファーから身体を起こした。
ワンテンポ遅れて気配を察知した白も、訝しげに眉をひそめる。

「この気配が、今日ナルト君が家にいたくない理由ですか?」
「理由その一だ」
「まだあるんですか」
「あと五人分ある、だから放せ。もう行かないと逃げられなくなる」
「ようするに、この近づいてくる気配を追っ払えばいいんですね」
「聞け」

一応上下関係で上に位置する少年の言葉をスルーすると、白はナルトを引っ張って再び玄関から部屋へ戻した。
仕方なく窓から出ようと身体の向きを変えれば、再不斬が立ちはだかる。
どうあっても、外出させる気はないらしい。
ナルトは脱力した。
何だかもう色々面倒くさくなって、ままよとばかりに、先ほどまで再不斬が横になっていたソファーにドサリと身を沈める。

追い返す気満々の白には悪いが、ナルトは彼がやってくる相手にまだ勝てないことを分かっていた。
暇ができるたびに修行の面倒を見てやってはいるが、まだ新米上忍レベルの白と、前線を退いたとはいえ木の葉トップクラスの上忍。
しかも今回最初にやってきているのは切れ者として名高い人物だ。

今年も柏餅まみれか、と溜息を一つと同時に、扉の外に気配は降り立った。

軽いノックを合図に、ナルトが結界を解く。
それに気配は扉の取っ手を掴んだ。
玄関前には白が仁王立ちしている


「よぉナルト、柏餅持ってきどわっ!?」

「宗教勧誘はお断りしてますっ!!」

何じゃそら。


柏餅が大量に入ったビニール袋を片手に笑いながらシカクがドアを開いた瞬間、白が得意の千本を容赦なく顔面へ向けて放った。奇妙な台詞と共に。
心の中だけでツッコミを入れたのは安全圏で傍観していたナルトと再不斬のみで、シカクは突然の襲撃を間一髪頭をひねる事で避ける。
シカクが体勢を立て直す前に白はドアを再び閉め、鍵をかけて念入りにチェーンまで施すと、満足そうにかいてもいない汗をぬぐった。
目の前で勢いよく閉められたドアを前にして、シカクは愕然とする。
数秒後はたと我に返って、叫んだ。

「おいナルト、今の誰だ!? つーか気配なかったぞ!!?」
「誰かはどうでもいいだろう、あと気配は俺がさっきまで結界を張っていたからだ」
「あーなるほど……じゃなくてっ!」

奈良家当主が意外と必死なのには理由があった。
自分が何年もかけて手に入れた子供の信用を見知らぬ輩が得ている様子が気に食わないというのと、単純にナルトを心配してのことだ。
もっとも、比重は前者のほうが大きいようだが。

「すみませんがナルト君は本日僕らと過ごす予定なので帰ってください邪魔です」
「嫌に直球だな、白」

再不斬は白のこの強引な一面に慣れてきている自分が少し切なかった。

「あ?! ぽっと出のガキが何を言う!!」
「ぽっと出のガキに負けそうなのがそんなに嫌ですか、大人気ない」
「表へ出ろ」
「嫌ですよ、何のために扉閉めたと思ってるんですか。あ、ちなみに無理矢理入ってこようとして扉壊したら怒るのはナルト君ですよ?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

ドア越しに繰り広げられる舌戦は圧倒的に年少の白に分があるようで、怒りのチャクラがじわじわと伝わってきてナルトは気分が悪くなった。
白はあくまで自然体のようだが、しかし顔を見たいとは思わない。
きっと勝利の微笑みを浮かべているだろうことが容易く想像できるのが悲しいところだった。

そこへ本気で悔しがっているシカクの横に、新たな影が降り立つ。

「何をやってるんだ、シカク」
「!! いのいちかっ!」
「私が他の誰に見えるっていうんだい」

シカクが“二人ならいける!”と気分を浮上させ、状況を説明すると、いのいちも表情を険しいものへ変えた。
この大人気ない二人の心境はそろって『気に食わないガキがナルトの傍にいる。しかも恐らく複数』。
そんないのいちの手にも、手製の粽が入った籠がある。
名家当主が二人、殺気立った目でナルト宅の扉を睨んだ。



「新手ですか……」

白は一瞬眉を寄せ、後方の再不斬に視線を向ける。

「再不斬さん、僕だけじゃ手に負えそうに無いので一緒に出てくれませんか?」

“殺る気だよコイツ”と、そうつっこんでくれる強者は残念ながら室内にはいなかった。
アホか、というナルトの雰囲気も意に介せず、白は黙々と戦闘準備を整えていく。
かくいう再不斬も肩を竦めてから、ナルトにむけてクナイを借りる宣言をかました。

「意外だな、お前も行くのか」
「良い訓練相手だと思えば大した苦でもねぇだろ」
「慣れたな」
「言うな」

苦々しそうに顔を歪めた再不斬に、ナルトは軽く笑って自分がつけていたポーチとホルスターを外して投げる。
受け取ったそれを再不斬は装着し終わると、「さっさと戻るからてめぇもどっか行くなよ」とナルトに釘をさして、一気に開け放ったドアから白とともに飛び出していった。
『いい加減すっこんでてください!』だとか、『それはこっちの台詞だっ!!』だとか、『ていうか君達は誰だい!?』だとか、『お前らに教える義理はねぇよっ!』だとか。
声とともに遠ざかっていく四つの気配に、ナルトはようやく静寂を取り戻した室内で力を抜いた。
起こしていた身体を再びソファーに預ける。


慣れたといえば、恐らく自分もそれに含まれるのだろう。
こんなに騒がしく、それでいてある意味疲れる日常など、ついこの間までの自分にはまったく想像できないはずだ。
しかもそれに馴染みつつある己がいるなどとは、余計に。

クツリと小さく笑って、ナルトは近くにあった書物に手を伸ばそうとして、止めた。
無言で玄関へ向かい、ドアを開ける。
そこには恰幅のいい秋道家の当主がいた。

「おお、ナルト。わざわざ悪いな」
「いや」
「もしやシカクといのいちはもう来た後か?」
「……ああ」

まさかここから数キロ離れたあたりで私兵と戦闘中とは言えない。
ナルトは素直にチョウザの言葉を肯定した。
「そうか」と微笑んだチョウザに、ナルトは視線で用件を問う。

「ああ、すまん。今日はこどもの日だろう? 毎年柏餅や粽じゃ迷惑だろうと今更思ってな。今年は酒だ」

そう言って袋を差し出した。
中をのぞいて見ると一升瓶が一本、銘柄もなかなか手に入らない上物。
それだけでなく他にもなにやら酒のつまみになりそうな食物が入っていた。

「つまみのほうは日向と犬塚、あと油目からだ。酒をやるという話をしたらあいつらはつまみを用意してな。今日予定があって渡しに行けないと言っていたから代わりに預かってきた」
「そうか、ありがとう。あいつらにも会ったら伝えといてくれ」
「分かった」

嬉しい気遣いだった。
なんで先にきた二人はこういう部分に気付かないのか。

去っていった大きな背中を数秒無言で見送って、室内へ戻る。
袋をテーブルの上にのせてから、中の物をよりわけ、生ものは冷蔵庫へ。
どうせ今日中に食べきってしまうだろうし、時期的にもそう心配することはないと思うが、念のためだ。

ふとこちらに向かってくる複数の音と気配。
本当に来客の多い日だなと溜息を吐く。
むしろ向かってくる彼らの目的が読めない。
もうどうでもいいか、と再度ソファーに沈んだ。
その時から秒針が180を数えたあたりで、気配の集団がアパートの下へ辿り着く。

「ナルトー!!」

同班の少女の呼び声が聞こえるが答えない。
せっかくの休日だ、へたなことで時間を費やしたいとは思わない。

「気配絶って、居留守使ったって無駄よー!! 火影様に今日はあんた家にいるって聞いてきたんだからーー!!」

(…くそじじい………)

次回の任務ボイコットしてやろうかと、あの掴みどころ無い嫌な笑みを浮かべているだろう里長を想像して、報復を決心する。
ナルトは表情を変えぬまま窓に手をかけた。
眼下には新人下忍三班が勢揃いしていて、はたから見れば異様な光景だろうことが予想できる。

「今日こどもの日でしょー? だから高給取りの先生達にたかってやろうってことになったのー! お昼ごはん食べに行きましょー!」

満面の笑顔で酷く楽しそうな雰囲気の少女たちに、どちらかというと無理矢理付き合わされたという感じの男子達。
それでも満更でもなさそうなのは、表情を見れば明らかだ。
担当上忍三人も、「今日ぐらいは」という気持ちが強いのか、苦笑するに留まっている。

眉を寄せて拒絶の意を示したにも関わらず、キバが赤丸を頭の上にのせ、いのと同時に地を蹴った。
チャクラを吸着させてアパートの壁を駆け上り、思わず身を引こうとしたナルトの腕を両脇からしっかり掴む。

「「行く(だろ)(でしょ)?」」

どうやら日に日に強引に逞しくなっていっているらしい新人下忍達。
恐らく里長も遠眼鏡の術でこの光景を窺っているに違いない。
納得できるものでもないが、逃げることも難しそうだ。

「……分かった、行くから離せ、ついでに下りろ」

下で『よくやったー!!』と盛り上がっている声を背に、ナルトは床に落ちていた広告を拾って、テーブルに置いてある筆をとった。
裏が白紙のソレに、先ほど飛び出していった凸凹コンビ宛の伝言を残す。

『 昼飯を食いに行ってくる。 ナルト 』

帰ってきたら怒られるだろう、確実に。
再不斬はともかく、白の方はできるだけ遠慮したい。
機嫌取りの方法でも考えなければ。

いつもの明るい服に袖を通す。
里人の前では今までどおりドベのまま。
予備のポーチとホルスターを装着して玄関を出た。
ふと結界を解いていたことを思い出したが、帰ってきていない二人がいる以上そう易々と掛けない方がいいかと考え直す。


太陽は真上、時刻は正午。

暖かい日差しと、

いつもと違っていて、それでいて違わなくなってきている日常を感じて、

ナルトは目を細めた。




















すでに空が闇に染まったころ。
結局昼食だけじゃなく他にも色々連れ回されたナルトが、精神的に疲労して帰還すると、不機嫌な白と再不斬に出迎えられた。
機嫌取りを本日貰った上物の酒を飲み交わすことで果たし、疑問を口にする。


「そういえば、あの後どうなったんだ?」

「…………………次回に持ち越しです」


苦虫を噛み潰したような顔をして呟いた白と、悔しさを隠すように酒を注ぎ足す再不斬がいた。








同時期に奈良家と山中家で、同じように酒を呷る姿が見られたことを、彼らは知らない。








END


■あとがき■
長っ。(驚愕)
自分で書いといてなんですが長いよ、6000文字超えたよ。

さて遅れましたが20000HITありがとうございましたー!!
純粋に嬉しいですv
お礼小説こんなんで申し訳ないですが。(自嘲)
やけにトラブルが多かったこの小説、データが飛んだ時は白くなりました!(5000文字がパァ)

相変わらず白が一人で暴走してる感じですが、これでも抑えたほうです。(ぇ)
ほら、私がろくな人間じゃないので、やろうと思えばいくらでも壊せますから!!
よろしかったらお持ち帰りくださいー。















無断転写転用は絶対に止めて下さい。




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