Silky rose
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 ゆっくりゆくっりと、愛しげに隣で眠る彼の髪を梳く。
 少しずれたシーツを彼にかけなおす。
 頬にキスをする。
 彼がくすぐったそうに身を捩る。
 でも顔はとてもうれしそうで。
 シカマルは微笑まずにはいられない。





 それはシカマルにとって唯一の至福の時。
 その顔を見るのがシカマルにとって何よりも嬉しい時。





 彼と共にこの道を歩むと決めてから幾度となく自分に誓ってきた。
 彼が頼るのは自分ひとりだけでいい。
 彼が本心を曝け出すのは自分だけでいい。
 彼が休む場所は自分でありたい。
 彼を守れるのは自分だけでありたい。
 彼が微笑みかけるのは自分だけでいいと。





 たとえその道が荊の道であろうとも。
 彼と共に歩むと決めたその時に、誓った。





 彼はとても強く、とても弱い。
 彼は無表情で淡々と任務をこなす。
 失敗することはない。
 しかし、彼の心はいつも泣いている。
 それはシカマルにしか見えない彼の弱い部分。





 こうして梳いているシカマルの背には数時間前に彼を庇ってつけた傷がある。
 包帯も巻き、痛み止めも飲んだが、痛みが少し残っている。





 それでもまだシカマルは、髪を梳く手を止めない。














 小鳥の鳴き声とカーテンの隙間から漏れる朝日で、
 ベッドの中のナルトが小さく身動ぎをする。
 シカマルはそれをベッド脇の椅子に座り、新聞を読みながら目端で見止めた。



 「・・・・・・・んっ。」
 「起きたか?」
 「ぼち・・・ぼち。」
 「そろそろ起きろよ。今日は下忍の任務があっからな。」
 「そー・・・だった。」



 もそもそとナルトがベッドから抜け出し、んーっと背伸びをする。
 それを見てシカマルは新聞を折りたたみ、寝室のドアを開けたところで立ち止まる。
 振り返って新聞で肩を叩きながら、その新聞でダイニングを指した。



 「あーっ、メシもうできてっから。」
 「わかった。急いで着替える。」



 ナルトはドアの隙間から微かににおって来る香ばしい香りに、
 今まで感じていなかった食欲が湧いてくる。
 シカマルは静かにドアを閉めフッと少し笑った。










 ナルトが着替えてダイニングに来ると、
 シカマルはコーヒーを飲みながら先程の新聞を読んでいた。



 「おっまたせっ。」
 「・・・お前、髪ボサボサ。」



 テーブルに並べられた純和風の朝ご飯を目に入れ、
 うっまそー、とイスを引いてナルトが座る。
 実際、シカマルの作るご飯はおいしい。
 これまで一度も不味いものを出したことはない。
 すると、向かいに座っているシカマルが再び新聞を折りたたみ、
 ナルトに手を伸ばしてきた。
 そして、ぐちゃぐちゃにハネているナルトの髪を撫で付ける。



 「しょーがねぇーじゃん。腹減ってんだから。」



 それから二人でいただきますと言い、食べ始めた。
 楽しいひと時。
 ナルトはガツガツと皿を片っ端から片付けていく。
 その姿に呆気にとられるシカマル。



 「おいおい。んながっつかなくたってメシはなくなんねぇっつーの。
  ちっと落ち着いて食えよ。」
 「はぁっへ、ふがふぁふふぉめひふぁふふぁふぃし。」
 「いや、何言ってんのかわかんねぇ。」



 ナルトはゴクッンと口の中一杯に詰め込んでいたものを飲み込み、



 「シカマルのメシうめぇし。」



 いそいそと次のおかずに手をつけた。



 「ありがとよ。だが褒めたってそれ以上は何もでねぇぞ。」
 「マジ?・・・褒めて損した。」



 ナルトは残念そうに呟き、それから暫く二人は黙々と食事に専念した。
 粗方片付いた頃、シカマルが自分の胸元に注がれている視線について問うた。
 それには随分前に気がついていた。
 にもかかわらず、
 シカマルは相手が何か言うまではあえて口にはしないでおこうと思っていた。
 そのうち何か言ってくるだろうと思っていたし、
 相手が言うであろう言葉も大体想像出来ていたから。
 しかし、相手がいつまでたっても何も言わない。
 ったく、めんどくせぇ。
 シカマルは心の中で一人ゴチる。



 「さっきから何だ、人のこと見て?」



 いきなり振られたナルトはすすっていた味噌汁をどもって噴出しそうになる。



 「何でもねぇよ。」
 「何でもないわけねぇだろーが。
  メシ食ってる間中、チラッチラ人のこと見やがって。
  言いたいことあんならはっきり言えっていつも言ってんだろーが。」
 「じゃぁ言うけど、何でお前は俺を庇んだよ!!」



 箸を置いてナルトが真っ直ぐシカマルを睨みつける。



 「昨日の事か?
  アレは道具投げるより俺が行った方が確実に避けられると思ったからだよ。」



 ちっとしくったけどな。
 それがどうしたとばかりに言い、
 シカマルは手を伸ばしてカップにコーヒーを入れ、一口すすった。
 目線はたたんである新聞の記事へ向いている。
 そんなシカマルの態度にナルトは食ってかかった。



 「昨日のもだけど、いつもだよ。いつもいつもいつも!!
  何でお前は俺を庇うわけ?!
  俺の方がお前より全然強いだろ!!
  俺だってあれくらい簡単に避けれるだろ!!」
 「弱ぇよ。」
 「あぁ?」



 今度は目線をゆっくりとナルトに合わせ、射る様に見据えた。



 「お前は弱い。」



 違うか?



 「・・・そ?」



 ナルトが視線を泳がせる。



 「そ。」
 「そー・・・かなぁ?」
 「ここがいつも悲鳴上げてんのが聞こえる。」



 うるせぇくらいに。
 シカマルがナルトの左胸を指差す。






「だから、俺がお前を守ってやんなきゃだめだろ。」






 ナルトは俯き、指された左胸を服越しにギュッと握りしめる。
 シカマルは立ち上がり、食器を片付け始める。
 遠くで食器を洗う音がする。
 ナルトは尚も俯いたまま。



 「おらっ、行くぞ。」



 シカマルがナルトの肩を叩く。
 顔を上げたナルトは苦しそうに眉を顰めていた。



 「カカシみてぇになりてぇのかよ?」



 茶化したように言い、ナルトから離れる。
 本当はこれ以上ナルトのそんな顔を見たくなかった。
 そんな顔をさせるために言ったわけじゃない。
 シカマルの足音が段々とナルトから遠ざかって行く。










「ナルト。お前は俺が守ってやる。」










 ナルトの背中越しに小さくそう聞こえた。
 ばっとナルトが座ったまま振り返ると、シカマルが外に出て行くところだった。
 ナルトは立ち上がり、慌ててシカマルの背中を追いかけた。



 「シカマルッ!!」



 シカマルは少し行った木の下で寄りかかってナルトを待っていた。



 「遅ぇよ。」

















 彼は強くて弱い。
 彼の心はいつも泣いている。
 痛い痛いと泣いている。





 彼はいつも助けを求めている。
 俺以外誰もその事に気がつかない。
 彼自身でさえ気付いていない。





 だから思う。





 彼を守るのは自分でありたいと。





 ずっとずっと。





 永遠に。

























Fin.









無断転写転用は絶対に止めて下さい。





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