「恋するマリオネット」




「おはよう、今日も良い天気ね」

大広間に入ってきて、同寮の面々に控えめな笑みを浮かべてみせた少女。
名をモモコ・ヒュウガという。
この少女こそ、この日、晴れ渡る青空の下、ホグワーツ魔法魔術学校で争奪戦が繰り広げられる原因となる少女である。
天井に映る空はどこまでも青く、モモコの笑みはどこまでも優しく澄んでいた。




始まりは一時間目の魔法薬学だった。
グリフィンドールとスリザリンの合同授業という、喧嘩を起こしてくれと言わんばかりの組み合わせがそもそも間違っているような気もする。
教授が前に立って説明をしている間は良い。
だが、魔法薬を作る段階になって教授の口から出たグループ分けが問題だった。

「…今日は寮に関係なくグループを組んで良い。進んで他寮の者と組んで協調性を学ぶのも良かろう」

そう、魔法薬学教授は何ともありがたくない指示を出して下さったのだ。
生徒達は教科書や他の手荷物をまとめて、ガタガタと席を立つ。
教授の指示とはいえ、地下室の中はグリフィンドールとスリザリンで真っ二つに分かれていた。
が。

「ねえ…、スネイプ君、組んでくれないかな?」

その空気をものともせず、モモコはひょこひょことスリザリンの生徒達の方へ向かい、セブルス・スネイプに声をかけたのである。
声をかけられたセブルスはもちろん、グリフィンドールの面々、中でも悪戯仕掛け人として名を馳せる少年達は驚いて目を丸くした。
何故だかしん、とした沈黙が地下室内に落ちる。

「駄目なら良いんだけど…」
「いや―――」
「止めとけよ、モモコ。わざわざスリザリンの奴と組む事ない」

モモコに答えようとしたセブルスを遮って、シリウス・ブラックが声を上げた。
セブルスとシリウスはばちっと火花が鳴りそうなくらいに互いを睨む。
シリウスが口を挟んできた事が、セブルスの対抗心――――何に対するものかは不明だが――――に火をつけた。

「私、魔法薬学苦手だから、教えて貰えたらと思ったんだけど…」
「わかった、組もう」

困ったように首を傾げて、再度問いかけたモモコに、セブルスは間髪入れず答えた。

「ありがとう!じゃあ、私、材料貰ってくるね」

ぱっと笑みを浮かべてモモコは教授のもとへと向かった。
悔しげに見つめるシリウスに、セブルスはふふん、と鼻で笑ってみせた。
かちんとしてシリウスはセブルスに飛びかかりかけだが、親友達に慌てて羽交い絞めにされる。
教授に睨まれたため、シリウスは何でもないふりを装った。
教授が見ていない間は、シリウスとセブルスは睨みあい、魔法薬学の授業は、張り詰めた空気のまま過ぎていった。




昼休みのホグワーツを、モモコは昼食を入れたバスケットを持って歩いていた。
こんな天気の良い日には、いつもモモコは校外に出て、ピクニック気分でお昼を食べる事にしている。
けれど、考える事は皆同じなのか、なかなか良い場所が見つからなくて、モモコはきょろきょろと辺りを見回しながら中庭を彷徨っていた。

「あ、スネイプ君」

ふと目を向けた先に見つけたセブルスの姿に、モモコは小さく呟いた。
その呟きを耳に留めて、セブルスはモモコを振り向いた。

「さっきはありがとう。教えるの上手いね、助かっちゃった」

にっこりとモモコが微笑むと、セブルスは思いがけない事を聞いた、というように目を丸くした後、わずかに頬を赤く染める。
こんな風に、セブルスの前で笑う人は滅多にいなかったから。

「…いや。それより、まだ昼を食べてないのか?…良ければ…」
「モモコー!こっちで一緒に食べましょう!」

軽く答えて、モモコを昼に誘おうと、セブルスは口を開きかけたが、またしても遮られる。
少し離れたところでぱたぱたと手を振っているのはリリー・エヴァンス。
隣に居たジェームズは、セブルスに向かってにやり、と笑ってみせた。
怪訝に思ったセブルスだったが、ジェームズの横からシリウスがひょいと顔を覗かせたため、彼らの意図はしっかり伝わった。
どうやら魔法薬学の時間の仕返しのつもりらしい。

「えっと、何か用だった?」

モモコに首を傾げられて、セブルスは首を振って否定した。
くだらないやり取りに時間を費やす気は、欠片もなかった。

「じゃあ、またね」

笑って駆けていくモモコを、セブルスは何故だか悔しい気持ちを抱えて見送ったのである。




昼食を一人で済ませたセブルスは、午後の空いた時間を読書に当てる事にした。
午後の授業がない者が多いのか、席はほとんど埋まっていて、セブルスはたまたま空いていた一つに腰を下ろす。

「…うわ」

すると何やら悲鳴じみた声が近くから聞こえて、セブルスはちらりと目を向けた。
偶然にも隣に座っていたのはモモコその人で、その隣には悪戯仕掛け人の一人、ピーター・ペティグリューが少し蒼ざめた顔で座っていた。

「レポートは一人で仕上げてこそ己の身になるものだと思うがな」

セブルスは冷たく呟いた。
途端にピーターは小さくなって俯く。

「でも、私も魔法薬学の時スネイプ君に助けて貰ったし…」
「それとこれとは別問題だ」

困ったように取り成すモモコにも、セブルスは冷たい声で返した。
隣り合って座る二人の姿が、何となく気に食わなかった。

「……」
「大体初めから人に頼ろうとする姿勢からして情けない」

言い返せないピーターに、畳みかけるようにセブルスは言葉を浴びせる。

「…人には得手不得手があるわ」
「努力しないから、理解も出来ないんだ」

代りに答えたモモコに冷淡に答えて、セブルスは顔を背けた。
ピーターは険悪な雰囲気におろおろと二人を交互に見つめる。

「全く、あんな奴等と付き合う奴はろくな奴がいない」

悪戯仕掛け人に対する苛立ちも交えて、セブルスは吐き捨てた。
ぷちり。
どこかで何かが切れた音が、した。

「黙れ…」

ぼそり、と聞こえた声に、セブルスは耳を疑った。
ピーターのものではあり得ない声に、おずおずとモモコを窺う。

「…ミス…ヒュウガ?」
「黙れって言ってんのよ、このタコ!さっきから聞いてりゃ何なの?くどくど、くどくどと鬱陶しいったらないわ!大体ね、あんたにそんな事言う資格があるわけ?気に食わないなら無視なりなんなりすれば良いじゃない。それをいちいち面白い反応を返してあげちゃうから繰り返しからかわれるのよ!頭ん中からっぽじゃないなら、少しは学べば?!」

モモコの口から途切れる事なくすらすらと紡ぎ出されるあまりにもあまりな毒舌に、セブルスはもちろん、ピーターも唖然とするしかなかった。
何だかモモコの目が据わっている気がするのは、たぶん気のせいではないだろう。
引きつった顔のまま、何も言えないセブルスを、モモコはじろり、と睨んだ。

「ちょっと聞いてるの?うんとかすんとか言いなさいよ、反応鈍いわね!」

普段の大人しい性格からは想像も出来ない表情で、モモコはセブルスの額を叩いた。
切れている。
現在のモモコは間違いなくものすごく切れている。
自分はとんでもない地雷を踏んだようだ、と青い顔をしながらセブルスは周囲を見渡す。
けれど、周りには最早誰も―――ピーターすらいなかった。
逃げ遅れたセブルスは、延々延々と切れたモモコの説教の嵐を食らうしかなかった。




空が黄昏に染まる頃、図書館にはぐったりとしたセブルス・スネイプと、モモコ・ヒュウガだけが残っていた。
我に返ったらしいモモコは、ぱちぱちと瞬きを繰り返している。

「あ、ここにいたんだね、モモコ。もうすぐ夕食だよ、行こう」

扉を開けて顔を覗かせて、リーマス・ルーピンはのほほんと微笑んだ。
一瞬迷う様子を見せたが、モモコは素直に微笑みを返して立ち上がる。

「セブルスも、一緒に、行く?」

にっこりと何故か妙な区切り方をしてリーマスは問いかける。
セブルスは無言でぶんぶん首を振って拒絶を示した。
リーマスはどこか残念そうな表情を浮かべたが、何も言わずにモモコの肩を軽く抱いて図書館の扉から出て行った。

「セブルス、ご愁傷様」

くすくすと軽い笑い声を投げて、ひらひらと振られるリーマスの手が、閉じた扉の向こうに消えた。

「確信犯か…!」

一部始終をリーマスに見られていたと知って、セブルスはぎり、と歯軋りしたけれど、それを聞くものは誰もいなかった。




モモコが実はリーマスと恋人関係だと悪戯仕掛け人プラス一名が知ったのは、翌日の事だった。





あとがき
3万HIT、御礼企画リクエスト二十五個目の作品です。リクエストは日向・D・桃子さんより。

『悪戯仕掛人対セブルスで主人公争奪戦でリーマスおちなお話。主人公は、普段はおとなしいのにきれると凄い性格』とのリクエスト。
何か楽しくてのりに任せるまま書いたらものすごく長くなってしまいました。
確信犯リーマスに皆踊らされたのでした(笑)そんなわけですごいタイトル。

こんなの出来てしまいましたが、お気に召さなかった場合は書き直しますので、遠慮なく言って下さいませ。
リクエスト、ありがとうございました!!

***

素敵なもの本当に有難う御座います!
企画達成を影ながら応援させていただきます。
ハリポタでは、リーマスとリドルが好きなんですvv


日向・D・桃子は私の移転前の果たしのHNです。



無断転用転写はお止め下さい。



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